ヒートパイプとは?

金属パイプの内部を真空に排気し、作動液体を適量封入します。そしてパイプの片側を加熱し、もう片側を冷却すると、加熱側で液体が蒸発して蒸気が発生し、その蒸気が冷却部で凝縮して液体になります。このような蒸発と凝縮に伴う潜熱移動により、小さな温度差で加熱部から冷却部に大量の熱が輸送され、銅の丸棒の熱伝導に比べ100倍にも達する熱輸送性能が得られます。

このような高性能熱輸送デバイスであるヒートパイプはもともとは人工衛星における電子機器の冷却手段として開発されましたが、その後、コンピュータのCPU冷却やパワーエレクトロニクス素子の冷却など地上でも使われるようになりました。

以上のような従来型ヒートパイプは凝縮液を冷却部から加熱部に戻す方法の違いによりウィック式サーモサイホン式の2つに分類されます。ウィック式ではパイプの内壁に金網(ウィック)または細かい溝(グルーブ)を取り付け、表面張力による毛管作用により凝縮液を加熱部に還流します。一方サーモサイホン式ではヒートパイプを鉛直に設置し、加熱部を下側とすることにより、凝縮液を重力により加熱部へ還流します。

      
    
ウィック式ヒートパイプ
サーモサイホン式ヒートパイプ

従来型ヒートパイプの熱輸送限界

以上のようなヒートパイプは熱輸送量がある値に達すると作動しなくなります。この熱輸送限界が生じる機構は方式によって異なります。ウィック式では液が加熱部に戻れる流量は毛管力により制限されるため、この毛管力限界を超えると加熱部がドライアウトし熱輸送が停止します。またサーモサイホン式では加熱量の増加に伴い蒸気流速が増加し、あるところで下向き液膜流れと上向き蒸気流の対向流が不安定となり、液膜が逆流します。これをフラッディング限界といいます。CPUなど電子素子の高性能化に伴う発熱量増加に対応するため、ヒートパイプの熱輸送限界の向上が望まれています。


自励振動ヒートパイプとは

上で説明した従来型ヒートパイプとは異なる作動原理の高性能熱輸送デバイスとして自励振動ヒートパイプが注目されています。このヒートパイプでは加熱部と冷却部の間に細い流路を何回も往復させ、この流路内を真空に排気した後、作動液体を半分程度封入します。加熱量が小さい場合には液は冷却側に偏って存在し、静止したU字型の液柱となりますが、加熱量の増加とともに液柱が自励的に振動するようになり、この振動流によって加熱部から冷却部へ熱が運ばれます。

        

このように自励振動ヒートパイプは温度差を駆動力として液の自励振動を発生させ、液体による顕熱輸送によって加熱部から冷却部に熱を移動させるのが特徴であり、従来のヒートパイプに比べ高い熱輸送限界を達成する可能性があります。またウィック構造が不用であることから特に大規模な熱輸送デバイスを低コストで実現できる可能性があります。


自励振動ヒートパイプの熱輸送特性に関する実験と数値解析

以上のような自励振動ヒートパイプの熱輸送特性を調べるため、当研究室では下図のように銅管を用いた実験を行い、設置姿勢の影響、作動媒体の物性値の影響など、熱輸送性能に及ぼす諸因子の影響を調べています。

     

さらに実験と対応した数値シミュレーションを行い、自励振動の発生を計算により再現するとともに、これまで不可能であった熱輸送性能の予測も条件によっては可能になりつつあります。下のアニメーションは12ターン流路の場合の液柱振動の計算結果の例です。

       


不等断面流路による自励振動ヒートパイプの性能向上

自励振動ヒートパイプはターン数が多い場合にはどのような設置姿勢でも動作しますが、ターン数が少ない場合には鉛直設置で下側を加熱するボトムヒート以外では動作しないことが知られています。この点を改善するため、幅の広い流路と狭い流路を交互に並べた不等断面流路を用いることにより、4ターンという少ないターン数でも水平設置で動作させることに成功しました。これは表面張力効果により狭い流路の液柱が加熱部に近づくため、振動が発生しやすくなることによるものです。

     

                 

この実験では切削加工によりアルミ板上に矩形溝流路を形成し、上面を透明板とすることにより内部の流動状態を可視化しています。Web用にムービー品質を落としたため不鮮明ですが、水平モードでも下のアニメーションに示すように自励振動が発生することが観察されます。

    

 

以上のように新しい熱輸送デバイスである自励振動ヒートパイプ基礎性能の解明性能予測手法の確立、そしてさらなる性能向上を目指して研究に取り組んでいます。